事例紹介

ごみゼロのビジネスイベント目指す:サステナブルイベントネットワークの取り組み

コロナ禍で「リアルイベントを開催する意義」が高まる中、ビジネスイベント主催者はアフターコロナに向けて業界が回復するための様々な手法を模索していますが、「サステナブルなイベント」に対する関心も急速に増してきています。従来のMICEを回復させるのではなく、サステナビリティを取り入れた新しいビジネスイベントの手法を構築することが今の潮流に沿った形として意識され始めています。

2021年128日〜10日の3日間、「エコプロ2021」が開催されました(主催:一般社団法人サステナブル経営推進機構、日本経済新聞社)。本催事は、環境配慮型製品・サービス(エコプロダクツ、エコサービス)に関する一般向け展示会で、会場となった東京ビッグサイトには3日間を通し54,885人もの来場者が集まりました。今回、この展示会にブース出展をしたサステナブルイベントネットワーク(以下SENの方に、新しいMICEのあり方の一例として、イベント展示会でごみゼロを目指す取り組みについてお話をお聞きしました。

*サステナブルイベントネットワーク(SEN)は株式会社ジャパングレーラインが運営するプラットフォームで、イベントに関わる主催者、サプライヤーが、産業全体を持続可能なものにするために、現状の課題・機会・新たなあり方を業界の垣根を超えて学び合い、対話し、創出し、共有する目的で創設されました。ネットワーキング、勉強会、セミナー、情報発信、ビジネスマッチングの実施など、活発に活動しています。

イベント展示でのごみの廃棄について現状をお聞かせください。

イベントの実施は大量のごみの廃棄とCO2排出を伴います。私たちの独自調査では1,000名のインセンティブイベントの場合、廃棄物は2285.6kgCO2100.71トンも排出されます。このCO2の量は7,100本の木が1年間かけて吸収する量に相当します。エコプロのような展示会では、主催者は特に環境に配慮しなくてはなりません。しかしながら、設営時の梱包材や端材への配慮や終了後の焼却処分における取り組みは欧米での取り組みと比べるとまだ改良の余地があります。私たちが主催者側と情報交換をする中でも、作っては壊し、廃棄を生むイベント展示に問題意識を持たれている方がとても多く、改善する方法を探されていました。この問題はエコプロに限らず、すべてのMICEイベントに共通することです。

エコプロ展でSENはどのような解決策を提案したのでしょうか。

SENでは、ごみゼロの展示ブースを設計しました。サステナブルな素材を利用するだけではなく、サーキュラーエコノミーの概念を取り入れ、循環する仕組みを設計の段階から導入し、イベントを根本的に変えることで廃棄をなくす取り組みです。また、新規の素材を一切使わず、一部廃材を展示ブースのデザインとして利用する工夫もしました。具体的な事例をご紹介します。

  • - パンチカーペット

イベントにおける廃棄の中で木材についで多いのがパンチカーペットと言われています。現在は再生プラスチックが主流であるものの、一度使用されただけで捨てられているのが現状です。イベントの企画、設計を行ったことのある方ならご承知のことですが、最初のイメージパースの段階からパンチカーペットはあるものとして認識されており、その後考えることは「色」「素材」を変えることくらいです。しかし、この固定観念に対して「本当に必要なのか?」「なくすことはできないのか?」と、Reduceの視点から考えると解決法が見つかることがあります。実は、今回のSENの展示ブースにはパンチカーペットを敷いていません。東京ビッグサイトの床面は基本コンクリートですが、非常にきれいな状態でした。そのため来場者はパンチカーペットがないことにまったく気づいていませんでした。これには私たちも驚きました。

仮にデザイン性を訴求したい場合、廃材から作ったパネルを組み合わせることで床パネルとして利用することができます。

  • - テンションファブリックの採用

木工パネルに代わる布のことです。イベントの展示でよく使われる壁面パネルは木工で出来ており、その上に接着剤で紙の印刷物を貼り付けるのが一般的です。使用後は紙を剥がし、再利用できる場合は持ち帰り、特殊な形に加工した場合は熱焼却という形で廃棄するため、制作から廃棄までの過程でCO2排出量の多いパートです。また、木工パネルそのものが重いため、運搬コストが多くかかったり、パネル製作や壁面の接着には特殊な技能を持った職人さんしか扱えなかったり、という欠点がありました。そこで、今回は廃棄が出ない仕組みで作られたテンションファブリックを採用しました。

 

テンションファブリックの大きな利点は、デザインを布に印刷して掲出するため、同じ図柄であれば何度も再利用が出来ることです。しかも軽量で、大きなグラフィックでも一人で持ち運びが可能ですので運搬や保管におけるコストカットにつながります。また、枠にはめるだけなので、慣れれば誰でも5分で施工でき、設営時間を大幅に短縮できます。そしてCO2排出量は従来の方法よりも1/5程度に削減できるのです。最終的に使わなくなった場合、布自体が再生可能なため、繊維に戻し、再び新しい布としてリサイクルすることが可能です。テンションファブリックはコスト面と利便性とサステナビリティを兼ね備えた新たな展示手法として活路が見い出され始めています。

  • - 日本初のグローイングパビリオン(会期中に形が変わる展示)

ブース設営時には木材の端材が大量に使われた結果、廃棄されたり、イベント会期中参加者に提供されるコーヒーからは多量のコーヒーかすが発生したりします。コーヒーかすや木材の廃棄物は、実はきのこにとっては貴重な栄養源となることを逆転の発想で活用できるのがこのグローイングパビリオンと呼ばれる展示です。きのこの菌をコーヒーかすのブロックに培養することで、生えてきたキノコが接着剤としての役目を果たします。キノコが生えてくる限り自由自在にパネルやブロックに成形することが可能になります。新たな木材やプラスチックパネル等を使うこともないため、CO2排出量もありません。

 

左:コーヒーかすから成形されたブロック、右:ブロックの3日目の様子

将来的にはこの廃棄物をレゴのようにブロック状にすることで、様々な展示の素材として活用することが可能です。さらに、有機素材しか使用していないため、使用後はコンポストが可能です。農家と連携し、できた堆肥から野菜を栽培し次回のイベントで振る舞われる料理に使用するなど、循環を生むエコシステムの開発にも取り組んでいます。


このフロアパネルは使用後に取り外し、次回のイベントに流用することも可能です。どうしても使用感が出てしまう場合は洗浄したり、表面の木を削ったりすることもできます。新しい面が露出するという特性をうまく利用すれば廃棄をなくす一歩となります。

  • - 廃材による影アート

「廃棄されるものにもスポットライトを当てることによりサステナブルな未来を創ることができる」というコンセプトのもと、イベントで配布される紙資料を中心とした廃棄の多さを認識してもらうため、影アートの展示を行いました。このアート展示は一度使ったら廃棄する、という意識を改めてもらう目的もあります。今回出展した展示会で配布される紙媒体の資料を集めて制作した作品は、別のイベントでも再利用できるよう保管しており、作者のアート作品として個展にも出展する予定です。

以上のように、あらゆる角度からの取り組みの結果、私たちSENではエコプロ展でごみゼロを達成しました。

MICE主催者やサプライヤーは今後どうすべきかアドバイスをお願いします。

これからは、企業が扱うビジネスだけではなく、企業が主催したり参加したりするビジネスイベントもサステナブルな観点が必要になってくる時代です。しかし現状では、何を根拠にサステナブルというのかがとても曖昧なため、「何から取り組んでよいのかわからない」という声をよく聞きます。まずは現状を把握することが重要だと考えます。SENでは①廃棄物量と②CO2排出量の2つを以てイベントの環境負荷を定量化することで、「現状の把握・目標の設定・改善の成果」を数値で可視化することを実現しています。また、この度、MICE主催者が導入しやすいように「サステナブルイベントパッケージ」を作成しました。定量化・会場選び・企画・サプライヤー選定・参加者コミュニケーション・実施・レポーティングをトータルにコンサルティングし、サステナブルなイベントの開催をサポートするツールです。これまでのイベントの魅力を損なうことなく、環境に配慮したイベントが実施でき、サステナビリティレポートを通じて対外的に情報発信もできます。SENというプラットフォームを基盤にし、サステナブルなイベントのあり方を皆さんとともに考えていきたいと思います。

以上、サステナブルイベントネットワーク(SEN)の取り組み事例紹介でした。東京観光財団はサステナブルなMICEに関する情報をこれからも発信していきます。