完全ウェブ開催の「第120回日本外科学会定期学術集会」が成功裏に終了
2020年8月13日~15日に、国内でも有数の会員数を誇る日本外科学会主催にて「第120回日本外科学会定期学術集会」が開催されました。今回で「大還暦」という記念の年を迎えた同会議は、日本外科学会の長い歴史の中で初の完全ウェブ開催となり、東京都の紀尾井カンファレンスと横浜市のパシフィコ横浜の2会場からの中継を交えて開催されました。参加登録者数は19,000人を超え、大盛況のうちに幕を閉じました。
本会議で会頭を務められた慶應義塾大学医学部外科学教室の北川雄光教授にお話をお伺いしました。
-第120回日本外科学会定期学術集会(JSS120)のオンライン開催を終えて、ご感想をお聞かせください。
当初4月に予定していた本学術集会の現地開催は新型コロナウィルス感染拡大を受けて断念せざるをえなくなりましたが、日本外科学会では、東日本大震災の際に「紙面開催」を行った経験がありました。そのことを踏まえ、中止ではなく、何らかの方法で開催できないか検討を重ね、最終的にウェブ開催といたしました。
準備を始めた2月頃には、まだ国内外において、学術集会の完全ウェブ開催の事例がほとんどありませんでした。最適なプラットフォームを比較検討し、やりたいこと、できることを外科学会事務局や委託運営会社と慎重に議論しながら、手探りで一から作り上げる苦労がありました。
最も重視したのは、ウェブ開催でありながら、いかにライブ感を出すかでした。会期中は、17会場・計約250セッションの全てについてライブ配信を行う、という画期的かつこれまで例を見ない規模での開催が実現しました。
-オンライン開催にあたり、工夫された点やご苦労されたことなどを教えてください。
会期中は、都内及び横浜市の会議施設から中継を行う体制を取りました。また17会場全てに当科スタッフを配置し、通信環境のトラブルや質疑応答のフォロー等に瞬時に対応できるように工夫しました。
ライブ感を意識する一方で、外科学分野では手術動画が演題発表に欠かせないものであり、その安定配信という課題を解決する必要がありました。そのため、演題発表については音声付スライドを各発表者に事前準備してもらい、サーバにあらかじめアップロードする方法を取ることで解決しました。また、質疑応答についてはチャットボックスを活用し、ライブ感を大事にしたものの、「質問者が会場で挙手し、檀上の発表者が表情を見ながら質問に答える」というリアル開催の経験には一歩及ばなかったとの意見も多く寄せられ、今後の改善点となりました。
本会議では、完全ウェブ開催であっても、時間をかけて準備してきたプログラムを可能な限り実現することを目指しました。まず、第120回を記念し、外科学会の歩みを記した年表や外科学の歴史紹介ビデオ、さらには慶應義塾大学医学部外科学教室100年の歩みなどを会議ウェブサイトで紹介しました。会議テーマである「命と向き合い 外科医として生きる-To live as a surgeon: Looking life in the eye-」のコンセプトビデオも公開し、様々なご意見もいただきました。
会期2日目には第120回大会を記念し、3部構成の式典を開催しました。第1部は36名の外科医有志によるオーケストラ及び合唱、第2部は未来を担う6名の外科医からのビデオメッセージ、最後に第3部として森 正樹 日本外科学会理事長より「未来のための今:横浜宣言2020*」の発表がありました。
リアルに一堂に会し、感動を分かち合うことは叶わなかったものの、オンライン参加者にとっても感動を呼ぶ内容であったとの声が届いています。
*当初、4月に予定されていた本会議の開催都市が横浜市であったことに由来。
▼会議の様子
-今後、コロナ禍が続く中で、会議開催の展望をお聞かせください。
オンラインでの会議参加が急速に一般化したこともあり、今後の会議は、ウェブ開催やハイブリッド開催がさらに進むと考えています。ウェブ開催は、移動や宿泊の手間がなく、仕事の合間や休暇中でも参加や視聴可能で、特に遠方の参加者や子育てなど各種事情を抱えた医師にとって会議参加のハードルが下がるという利点があります。
一方でオンライン会議には、セッション終了後や懇親会で普段会うことのできない医師と交流を持つ、参加者同士でざっくばらんな意見交換をする、などのネットワーキングが困難であるといった課題があることは否めません。
ウェブ開催は、発表データの保護の観点からも、セキュリティ強化も今後の大きな課題の1つです。斬新な研究発表など、アーカイブ化を必ずしも希望されない発表者もいるため、発表スライドの扱いについては、今後は柔軟な対応と共に、明確なルール作りが必要だと考えています。