事例紹介

3回のバーチャルを経て初のハイブリッド開催:フィジカルの必要性を実感

2021年12月14日(火)から17日(金)まで、東京国際フォーラムでシーグラフアジア2021が開催されました。今回は、「LIVE」を開催テーマに、コンピュータ・グラフィックス(CG)、バーチャルリアリティ(仮想現実: VR)、拡張現実(AR)、人工知能(AI)といった、最新技術に関する研究発表とこれらの技術の実用化に向けた企業、大学による展示デモンストレーションが行われ、41の国と地域から約4,400名がオンサイトとバーチャルで参加しました。

最終日、カンファレンスチェアの塩田周三氏(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役CEO)にお話をお聞きしました。

会議が無事終了しました。今の率直な感想をお聞かせください。

会議にかかわった皆さんへの感謝です。今後、シーグラフは例外なくハイブリッドになってきますが、その初めてのショーケースとしてやり遂げたという満足感があります。また、感染症対策も万全に行い、安全に実施できました。

2020年以降、シーグラフは北米で2回、アジアで1回合計3回の完全オンライン会議を実施しました。初のハイブリッド会議の実施によって、今後、会議のプログラムの中で何をオンラインでやれるか、何をフィジカルでやるべきかについての示唆ができると思います。

具体的には何をフィジカルにすべきでしょうか。

単に情報を入手するならオンラインで十分です。オンデマンドで会議のセッションを時間の制限なく視聴できます。しかし、論文発表者と参加者が追加の議論をする、プログラムの感想を語り合うといったことはフィジカルでしかできません。この過程で新たな展開が生まれることが重要なのです。今回は日本在住者しかフィジカルに参加できない、しかし参加者により多く現地に来てもらいたいという目的から、シーグラフ初の試みとしてBird of a Feather というディスカッションが目的のプログラムで、日本語による論文解説を行いました。これは参加者には極めて好評で、これにより活発な意見交換が生まれ、シーグラフのコミュニティが強まりました。

展示会場でも多くの参加者が集まっていましたね。

今回の展示は日本からの出展が多かったですが、2年ぶりに待望の出展を果たしたという企業や団体が多く、高解像度ディスプレイやInteractive Installation など質の高い、見ごたえのある展示が多かったですね。展示は現地で実物を見て、音を確かめ、体感しないとわかりません。今回は日本の高い技術が披露できたといえるでしょう。

展示会場ではStudents Meet Up というイベントも行いました。企業と学生を「つなぐ」カジュアルな形式で、ジョブフェアではありません。これもフィジカルならではのことだと思っています。

シーグラフではネットワーキングとして例年レセプションを開催していますが、今回はその代りに2日間Happy Hourを設けて、フィジカルの参加者が目的なくランダムにつながるようにしました。

ハイブリッドの課題はなんでしょうか。

2018年に東京で開催した時は約1万人の来場者がありましたが、今回はオンラインで約1,400人、フィジカルで3,000人以上、合計で約4,400名でした。課題としてはレジストレーションのカテゴリーの見直しです。今回はフルカンファレンスでの登録が少なかったですし、会議のメイン会場であるHall Cの集客も少なかったです。今後ハイブリッドが主流になってきますので、フィジカルに参加する理由を見極める必要があります。フィジカルに体験を共有するなら、小さい会場に分割するという形式もありうるでしょう。

今回、直前に発令された渡航制限でシンガポール本部の来日が急遽中止となりました。どんな影響がありましたか。

最も影響があったのは会議登録部分です。登録システムはシンガポールで構築しているものですが、特定のオペレーションスタッフしか運用できません。したがって会場ではそのシステムを使うことができず、参加者の名札には個人名など必要な情報が印字できませんでした。その上、登録デスクのディレクターやスタッフを日本で直前に雇用しなければなりませんでしたので、会期中日本の運営側はシンガポール本部とWhatsAppで常に指示を確認していたと思います。

会場のオペレーションはシーグラフ独自のシステムである学生ボランティアが担いました。厳格に選抜された、意識の高い多国籍からなるボランティアと、それを育成するリーダーによって組織され、連綿と受け継がれるこのシステムによって、連日の会議運営は滞りなく進行できました。とはいえ、2018年は300名登用したボランティアも今回は50名でした。ですので、東京都からボランティアを派遣していただき、学生ボランティアと連携できてよかったと思います。

フィジカルで開催するとき、デスティネーションとしての東京の魅力は何でしょうか。

シーグラフのコミュニティで東京はとても人気があります。東京に来られず、本当に残念に思っている海外の参加者は実に多いです。東京は世界の先端というだけでなく同時に文化の深度がある。さらに食、ファッションでの多様性など、外国人には「不思議な都市」だと思います。彼らにとっては東京での会議は非日常であり、演出によっては「お祭り」化ができます。

また、私たち主催者にとっては東京都の手厚い支援も大変ありがたいものです。

シーグラフはまさに仮想空間を具現化するテクノロジーだと思いますが、メタバースとフィジカルの会議という点でシーグラフはどういう方向に向かうのでしょうか。

ほかの会議よりも早く、よりよい体験を実現できるメタバースを目指すべきだと思います。しかし、メタバースでの場や体験を構築するためには「街」を創る必要があり、相当解像度が高くないと実現ができません。通信のインフラやテクノロジーの進展が待たれるところです。加えて、物理原則に縛られない空間に於ける設計思想やコミュニケーションメソッドの成熟も、技術以上に重要です。今後、シーグラフがメタバースを取り入れる方向に向かうとしても、上述のようにフィジカルにはバーチャルに代えがたい特性があるため継続していくはずです。その割合は5050かもしれませんね。