事例紹介

先行きが見えない不安と混乱の中、初めてのハイブリッド会議が無事に開催

2022年19日~13日の5日間、東京国際フォーラムでThe 35th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical SystemsIEEE MEMS 2022/35回国際微小電気機械システムコンファレンス)がハイブリッド形式で開催され、26の国と地域から500名強が参加しました。10月から12月の落ち着いた感染状態から一転し、オミクロン株の急速なまん延によって入国が原則として停止され、海外からの現地参加はかないませんでした。一方、国内からは実に200名を超える参加者が万全の感染症対策のもと、現地会場に集いました。

今回は会期終了後、IEEE MEMS 2022組織委員長である東北大学大学院工学研究科の田中秀治教授にお話しを伺いました。

ハイブリッド形式で開催されましたが、その経緯をお聞かせください。

本国際会議は、これまでハイブリッド形式で開催されたことはなく、また、私の周辺では他の事例もほとんどありませんでした。コロナ禍の中、あらゆることが不透明で先が読めず、オンサイト・オンラインの参加者の比率も推測できない中、ハイブリッド形式での開催に加え、会場のキャパシティ等を決断しなくてはならなかったのは、昨年の秋口、新型コロナウイルス感染症の第5波が押し寄せる最中でした。開催直前にはオミクロン株のまん延による第6波の到来が報じられたものの、緊急事態宣言またはまん延防止措置が発せられることなく、国内からは200名を超える方々が現地参加されました。

ハイブリッド開催にあたり、どのような点に留意をされましたか。

オンライン配信については、ライブ感を持たせたいという思いから、ライブ・ストリーミングを選択しました。この場合、まず、オンサイトとオンラインの講演をシームレスにつなぐことが重要となります。今回は東京の会場のみならず、米国にも配信のためのスタッフを配置しました。また、セッションチェアは現地参加者に依頼し、オンサイト・オンライン両方の講演と質問を取り仕切ってもらいました。日本側のAVエンジニアは信頼できましたし、米国側のチームはオンライン講演のハンドリングと配信に熟練していました。両者がうまく連携し、大きなトラブルはなく、現地参加・オンライン参加、どちらの参加者からもスムースな運営だったとお褒めの言葉を頂きました。事前にあらゆる事態を想定して体制を整えたことが、功を奏したと思います。

次に、プログラム構成については、通常であれば会議の冒頭に行う開会式を日本時間の昼に移動し、世界中からライブ参加できるようにするなど、現地参加者だけでなく世界中のオンライン参加者にも合理的かつ魅力的に感じられるように配慮しました。

また、今回は直前まで参加者にとって参加形態の選択が難しい状況だったので、参加費はオンサイトとオンラインで同額に設定しました。参加者に対しては直前まで現地参加できるチャンスを残したかったことに加え、参加形態の変更に伴う払戻や追加徴収といった煩雑な管理を避けることによって、様々なイレギュラー対応に手を焼いている運営事務局の負荷を少しでも軽減する狙いもありました。オンライン参加を安価に設定するとハイブリッド形式での会議運営が費用的に維持できず、逆に高く設定し過ぎるとオンライン参加者から不満の声が上がるという心配があったのも事実です。今回、そのような声はなく、絶妙の価格設定ができたと思います。

ポスターセッションや展示についても工夫されたと伺いました。

現地参加するメリットを創出したいという考えがありましたので、ポスターは現地会場・バーチャルプラットフォームの両方に発表の場を用意しました。日本時間早朝と深夜のオンラインのポスターセッションには全員が参加し、会場のそれには現地参加者のみが参加しました。現地ポスターセッションは若手研究者や学生にとって、自身の研究を発表するだけではなく、実績豊富な産学の研究者たちと触れ合える貴重な場でもあるため、彼らのネットワーク形成とモチベーション向上に欠かせないという思いがありました。

スポンサー企業様にとって国際会議等での展示の第一の目的は、ネットワーク形成です。今回、現地会場に展示ブースを設けるだけではなく、現地ポスターセッションでは、採択論文のポスターの間にスポンサー企業様のポスターを入れ、会話の機会が増えることを狙いました。学術会議では、アカデミズムとコマーシャリズムは分けるのが常識ですが、今回、全員が参加するオンラインポスターセッションが主たる論文発表の場、現地ポスターセッションは主にネットワーキングの場と位置づけ、前述のようにすることで、産学両方の参加者に喜んで頂いたと思います。

会議を終えてのご感想をお聞かせください。

今回、先行きが不透明な状況が続く中、長い会議の歴史に支えられた手堅いやり方はできず、開催形態検討、プログラム編成、参加者数予測、収支予測、会場準備など、あらゆることで通常の会議以上に苦労しました。しかし、そのような状況でも、中国の共同チェア、委員会メンバー、運営事務局、スポンサー企業、そして、招致前からずっと伴走下さった東京観光財団のご協力があったからこそ、会議を成功に導くことができたと感謝しています。

歴史的にMEMS分野の研究で日本の貢献度は高いのですが、本会議は15年振りに日本で開催、東京では初の開催となりました。東京での開催には国内外に多くのサポーターがいたことに加え、本会議として初のハイブリッド形式での開催となりましたので、いろいろな意味でシンボリックな回になりました。

このように高い期待を持って頂いた東京開催でしたが、海外からの現地参加がかなわず、そういった方から「次の会議では是非東京を訪れたい」という声を数多く耳にしました。東京は安心安全かつ便利で、観光的・文化的な魅力に溢れるにもかかわらず、海外から多くの参加者を東京に迎えることができなかったことが本当に残念です。

今後の国際会議はどのようになるとお考えですか。

時間や費用の面でオンライン参加にメリットを感じる人もいますし、航空機利用の抑制がCO₂削減に繋がるとオンライン形式を肯定的に捉える動きも出ています。一方、最新技術の情報交換やネットワーキングといった学術会議の醍醐味については、オンライン参加はオンサイト参加には敵わないと実感していますし、開催地を訪れること自体は大きな魅力・刺激です。

今後も、多くの会議がハイブリッド形式または完全オンライン形式で開催されると予想されますが、東京で国際会議を現地開催していくためには、これまで以上に現地参加の価値や魅力を創出し、広く研究コミュニティにアピールすることが重要になると思います。東京ならそのアピール力に心配はありません。